2015年07月19日

ソロモンの偽証

映画の真実とは




評価:★★★   3.0点

この作品は、安定した構図と実直な演出によって、非常に映画度の高い映画だと感じました。
それは、長いシークエンスのカットであるとか、観客の凝視を求める表現だとか、大きくうねる様なドラマの構成に、映画としての骨格と風格を感じます。
現今の刺激を撒き散らして、視聴者の興味を無理やり引きずるような映画とは基本的に違う、大作を語るに相応しい話法だと思います。

物語は一人の少年の死をきっかけに、川に投げらた小石が波紋を広げるように、思春期の少年少女達の運命に影響を及ぼします。
この映画のタイトル『ソロモンの偽証』とは、「ソロモン王=知恵を持つ者=人間」が、その知恵によって自分に都合の悪い事実を「誤魔化して=偽証」見ない振りをするという意味かと思いました。
そして自らの罪に対して偽証を重ねれば重ねるほど、自らとその周囲の人間の人生を狂わせてしまうという真理がここにはあります。
それゆえ、少年少女達は自分の運命に向き合うために、生徒が自主的に裁判を開くことを決心します。
そして裁判を通じ最終的に、自らの過去を清算し、未来を生きる力を得る、再生の姿が描かれます。
裁判劇としての面白さも味わえますし、良質のミステリー映画に仕上がっているのと同時に、「ソロモン王=人間」にとって罪とは何かを問いかける哲学的命題を持った一本だと感じました。
非常に良心的で、小説ファンにも、映画単体でも、それぞれ楽しめるようにというバランスの取り方は、決して簡単ではないと思います。

で・・・・・ここから、この映画に関する無い物ねだりの理屈になりますので・・・・読みたくない方はスルー願います。


実際この原作の長大さは、映像化するには困りものだ。
宮部みゆきの小説は、その冗長と紙一重のディティールの積み重ねが、人生であるとか運命であるとかの遠大な命題を、終焉に至って結実させるのに欠かせない要素として有る。
つまりは大部の作品として成立する、必然性を持っている。

それゆえ、2000万部以上を売り上げたこの原作の読者を観衆として見越している製作者側にとって、読者の期待を裏切るわけにはいかないだろうから、小説の味を再現しようと努力するのも無理からぬ話では有る。
それゆえの前編・後編であろうが、しかし正直、映画として見たときに必然性が感じられない。
更に言えば、原作読者にとっても120分が240分になったところで、小説の持つ読後感が得られるものではないだろう。

ここに見える問題は、表現メディアが違うのに、無理にどちらかに合わせようとした場合に生じる矛盾であるように思う。
例えば映像メディアにおいて表現される時間間隔は、文章における文字数の積層量とは違い、カットの多さで置き換えられるべきである。
しかし、この映画では原作さながら長大なシークエンスによって、表現しようとしている。
原作の雰囲気を、この映像シークエンスによって置き換えたいと考えたとすれば、本来TVの連続ドラマとして映像化する必要があるに違いない。

やはりどれほど成功した小説であったとしても、映画としての独立性を目指してほしいと願うのは、無理であろうか。
例えば、森田芳光のやはり宮部みゆきの小説を映画化した「模倣犯」では、原作の再現をハナカラ放棄して映画として壮絶な自爆を遂げて見せた。
宮部みゆきファンは不満であったろうし、映画ファンとしても何やらワカランできではあったものの、なぜかスガスガシい思いすら感じた。

それは、森田芳光という映画監督が、映画の表現の自主性を守るために、原作と必死に格闘した末の苦闘の痕が、たとえその結果が芳しくなかったとしても、その作品に深く刻まれていたからだと思われた。

もちろん商業映画である以上、商業的な利益を生まねばなるまい。
しかし、映画ファンとして言わせてもらえれば、映画の表現に、映画というメディアに、小説を従属せしめてほしかった。
映画としての輝きを最優先として、小説を素材としてズタズタに切り裂いてほしかった。
映画という王国の前で、小説を平伏させるという気概を見せてほしかった。

もう一度言うが、メディアが違う以上、そこには表現メディア間での表現様式を巡る戦いが生じる。
そしてその真摯な対決に勝利しようという志があってこそ、小説の表した世界を100%映画表現として隷属してこそ、優れた映画作品が生まれると私は信じる。
その点から言えば、この映画は小説の表現に添い過ぎてしまったように感じられてならない。

それは自らの映画表現に対して、不誠実であると言わざるを得ない。

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posted by ヒラヒ・S at 20:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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