2015年11月14日

戦火の馬

スピルバーグが向かう地平



評価:★★★★★  5.0点

この映画は、スピルバーグ監督の感動作です。
今やスピルーバーグはハリウッド映画界を象徴するような人ですが、「激突」の昔から年々作品の幅を広げて来た軌跡を見ると、その努力は如何ばかりかと頭が下がります。

その表現の拡大は、例えば、スピルバーグのこの感動的な作品が、基本的に「ET」と同じ物語原型を持っていながら、「ET」よりもその描写が繊細で丹念になり、作家としての主張が説得力を持って語れるようになったことでも明らかだろうと思います。

具体的に言及すれば「ET」「戦火の馬」の2本とも、無垢な魂を持つ弱き者に対する、無限の同情と救済を描いている点で同じテーマの変奏曲だと思います。
その同じテーマを、「ET」ではSF設定の中で、地球に遭難した「宇宙人の子供=弱者」と「地球の子供=救助者」の交流の内に描きます。
映画「戦火の馬」では、1900年代の第一次世界大戦を舞台に「馬=弱者」と「飼い主=救助者」の関係に置き換えられています。

しかし同じ物語構造を持ちつつ、この2本の映画には差が有り、その差を確認するとスピルバーグ監督の表現力の変化が見られると思うのです。

その差異の一つが「弱者」を追い詰める「敵役」です。
「ET」では「敵役」が「政府機関=大人」で、大人対子供という構図になっており、実はこれはラストの自転車で飛び立つ有名なシーンでも明らかなように、「ピーターパン」の永遠の子供と悪い大人の対決の写し絵だったでしょう。
そんなおとぎ話の構造に、「子供とペット(ET)」、映画的に派手なSF的ビジュアルと、ヒット作品の要素がテンコ盛であることが分かります。

対して「戦火の馬」での敵役は「戦争」です。
それゆえここで描かれている対立の構図とは、戦争という人間の作り出した罪悪とそれにより破壊される自然が表わされています。
ここには明確に「テーマ=人間による自然破壊」が現されています。

考えてみれば、若き日のスピルバーグ作品は「激突」や「ジョーズ」、そして「ET」にしても、ある種「おとぎ話の構造=人間の深層心理の顕在化」を、現代的な舞台やSF的な道具立て、特にFXなどの特撮技術を駆使して、刺激たっぷりに描いていました。
それに対して、後年になるにつれ「シンドラーのリスト」や「プライベート・ライアン」で表現されるように、社会的なメッセージを語る作品に変化してきました。

しかし同時に、物語に「テーマ」を持ち込むことによって、それまでの作品の「おとぎ話」要素が薄れてしまったように思います。
なぜなら「おとぎ話」の、人々の心の奥底にある無意識世界を強く深く抉るためには、悪夢的イメージとそれに伴うエモーショナルな刺激が不可欠であり、同時にそれは具体的なテーマ性、現実を語るための物語とは相反するものだからでしょう。

個人的に、アカデミー賞も受賞した2作品ですが「シンドラーのリスト」や「プライベート・ライアン」は、現実世界のメッセージを届けるために「おとぎ話」であることができず、それゆえ直裁で生硬な頭でっかちの作品だという印象を持ちます。

個人的な印象としては「理念」を語る映画として見れば不完全燃焼であり、この型の映画であれば他に上手い監督がたくさんいて、やはり「ジュラシック・パーク」などの「おとぎ話」系列の娯楽作の完成度を考えれば、スピルバーグの監督としての資質はコチラにあると言わざる得ません。

しかしそんなアサハカな私の印象を、スピルバーグは嘲笑うように、この映画で超えてしまいます。

すなわち、「理念を語る現実映画」と「おとぎ話」の2系統の作品が並列していたスピルバーグ監督作が、この「戦火の馬」によって、「理念」と「おとぎ話」が融合し、「理念を語れるおとぎ話」として一つの完成を見せたように思います。

この映画では物語としての強さと、スピルバーグの主張が、お互いに補完関係として成立し、馬に降りかかるおとぎ話的運命の変転を追ううちに、自ずから人間が犯した罪悪「戦争」が如何に自然界を毒しているかと、涙とともに考えざるを得なくなります。

しかし今まで語ってきたように、本来相反する要素である「原初的・自然発生的物語=おとぎ話」に「理念という人工物」を渾然一体の形で表現するというのは、水に油を溶け込ませるくらい難しいことです。
それを可能にするためには、語るべき理念を一度トコトンまで突き詰め原初的な「おとぎ話」の要素にまで還元するという、「理念の情念化」とでも呼ぶべき作業を経て、「物語と理念」の完全な融合を果たした結果なのだと思います。

そしてそれこそは、この映画が語った「物語=自然発生物と理念=人工物」の融合という理想を、映画の構成で謳い上げているというのは、牽強付会に過ぎるでしょうか・・・・・・・

いずれにしても、そんな、飽くなき表現の追及にたいする努力と、その結果スピルバーグ監督の成し遂げた表現の進化に、賞賛を送りたいと思います。

関連レビュー「ET」:http://hirahi1.seesaa.net/article/429010654.html
関連レビュー「激突」:http://hirahi1.seesaa.net/article/404501345.html

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posted by ヒラヒ・S at 20:16| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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