2016年02月26日

第三の男

光と影に浮かぶ第三の男の正体



評価:★★★★★  5.0点

この映画はデザインは古いものの、見るべき魅力に富んだ秀作だと感じました。

特筆すべきなのは、その制作年代でしょう。
なんと第二次世界大戦が終わった4年後の1949年製作です。
キャロル・リード監督は第二次世界大戦直後のウィーンを舞台に、戦争の傷跡がそこここに残るウィーンの街で映画を撮影しています。
建物がいきなり砲弾の痕で崩壊していたり、壁に穴が開いていたりするのを見るだけで、もう歴史資料として残すべきです。

そんな戦後混乱期を舞台に演じられる、闇物資を巡って起きる犯罪事件に巻き込まれた、アメリカ人作家に起こるスリルとサスペンスの物語です。

この映画の基調は、イギリス伝統の探偵小説が持つ味わいであり、それはヒッチコックのサスペンス映画と共通するものです。
ヒッチコックが好きな人は、ご鑑賞いただければお気に召すのではないでしょうか。

また、この映画は制作年代を反映してモノクロ映画となっていますが、その光と影の深い陰影を捕えたカメラがと〜っても美しい。
そしてこの黒白の対比は、物語の混沌と謎の行方や、正義と悪など、劇としての要素を強く印象付ける、卓越した効果となっています。

それが一番効果を上げているのが、人の影が建物に怪物めいた巨大な姿となって現れるところでしょうか。
この年代はモノクロ撮影の末期という事も合って、光と影だけで表現できる映像について、ある種完成の域にあったのではないでしょうか。
そんなモノクロ撮影のもつ潜在的な力を再発見させてくれる映画でも有ります。

しかし、何より感銘を受けたのは名優オーソン・ウェルズの悪役ハリー・ライムでした。
この金の亡者のような冷酷なアメリカ人を、なんとも魅力的に、愛らしく演じて、この作品の中では決して多くない出演時間ながら、おいしいところを全て持っていきます。
このカリスマ的なヒールであれば、アリダ・ヴァリ演じるヒロインでなくとも夢中にならずにはいられないでしょう。
白黒の画面の中で輝くような笑顔と、陰鬱な悪を使い分け、その落差の大きさが単なる悪役にはとどまらない、人間としての業の深さを表しているようです。
これほど魅力的な悪役は、他にちょっと思いつかないほど、強い個性を持っています。
これはたぶん、演出上の力もあるでしょうが、多くをオーソン・ウェールズその人の魅力から、発せられているように思えます。

更に音楽映画史上、最も印象深い曲の一つとして上げられる、アントン・カラスのチター演奏によるテーマ曲が、この映画のドラマに見事に共鳴して響きます。
このボヘミア調のメロディーが、戦後の無国籍な混沌とした世相の哀調を奏で、その軽快なテンポが、本来重苦しくなるはずのこの映画の陰惨な内容を、どこか軽快に中和しエンターテーメントとして提供するのにちょうどいい味わいに変えているように思います。

実際この映画に「プラトーン」で使われた「弦楽のためのアダージョ」が流れたとしたら、重すぎてこれほどヒットしなかったと想像します。

そんなこの映画は「魅力的な悪役」「完璧なテーマ曲」「完成されたモノクロ映像」「歴史的ウィーン」など見所がイッパイなのです。
じつは、それ以外にも映画史に残る「名シーン」や「名セリフ」が盛りだくさんなのですが、ぜひ本編でお楽しみ下さい。


ということで終わりにすればいいものを・・・・・・
このタイトル「第三の男」の解釈をしてみたくなりました。
だいたい、つまらないこじつけになるのは眼に見えているのに、悪い癖でスミマセン。


この「空白地帯のウィーン」が表しているのは、戦後ヨーロッパの支配権の不在だったように思います。
欧州大陸を占めていたナチスドイツが崩壊したあと、映画内で描かれているように「ソビエト連邦」と「イギリス」が、欧州の覇権を本来争うべきだったはずです。
しかし実際は、戦後ヨーロッパを占めたのは「第三の男=アメリカ合衆国」だったと語られていると思うのです。
それは、イギリス映画でヨーロッパを舞台としているにもかかわらず、善悪二人のアメリカ人がこの物語上で主役を勤めているのは、そういう理由以外に考えられなかったのです。

これは結局、アメリカの存在が善にせよ悪にせよ、ヨーロッパ社会をコントロールするのだという苦い諦念だったでしょう。

更に言えば、悪人のアメリカ人が「金」を求め、善人のアメリカ人が「理想」を語るとき、ヒロインが悪人に惹かれるのは、結局ヨーロッパ社会はアメリカの「金=財政支援」は求めても、「アメリカの的な理念」は拒否するという明瞭な宣告だったように思います。

・・・・・と言うことで、ヤッパリつまらない解釈になってしまいました。
これ聞いたところで、映画の魅力が上がるとは我ながら思えないという・・・・・・以後、気をつけます。

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posted by ヒラヒ・S at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | イギリス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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