2016年02月28日

ヒッチコック 鳥


古典的作品の評価





評価:★★★★★  5.0点

サスペンスの巨匠ヒッチコック監督の、パニック映画のパイオニア作品とも言うべき一本です。
この監督はハリウッドでヒットを飛ばしたわりには、オスカー監督賞を取れなかったり、評価としては「ヌーベル・バーグ」の批評家が出てくるまでは低かったりして・・・・・

この監督の評価が低かった理由は、イギリス的な娯楽小説の伝統として、サスペンスやスリルを描くのが大事で、その理由はどうでもいいという作風を映画に持ち込んだせいだと考えています。
普通であれば、この映画「鳥」であれば、なぜ鳥が人を襲うのかが「メインテーマ=主題」であるべきでしょう。
その鳥が襲う理由が、自然破壊だとかということになって、人類は自然保護をしようなんて最もらしい答えを出す「映画」が完成するのでしょう。
しかし、英国貴族の暇つぶしの娯楽小説を始祖とするヒッチコックの映画に、そんな世界をどうこうしようなんて庶民的な欲望を投げかけてはいけません。

貴族達にとって、世界は幸福に満ち溢れて、なんら欠けているところは無いのです。
だからつまらない「テーマ」よりも、ヒマをつぶせる刺激が娯楽が描かれていれば、それでよいのです。

しかし実はこの「テーマ」を語らない事は、ヒッチコックの映画にもう一つの効果をもたらしました。
それは、テーマを持ったお話ではない、別の物語形式「おとぎ話」として、彼の映画を成立させたのです。
古来おとぎ話とは、長い間の伝承の中で娯楽や刺激の純度を上げていく中で、ついに永遠の物語生命を持つにいたりますが、その秘密こそが物語的な「テーマ」を持たない事でした。
そんな「テーマ」を持たない物語が、絶対的に人類共通の訴求力を上げえるのは、長い年月の間にその物語の語る刺激が深いところで人間の無意識につながっているからだといいます。

そう考えてくれば、人が「鳥」に襲われるというのは、その理由がわからないだけに、人の心の奥底にある突然の不幸や不運の具現化として、不気味に心を抉らないでしょうか。
つまり大事なのは、この映画で鳥が人を襲うという具体的な現象が意味したのが、「いつか思いもかけない不幸が降りかかる」のでないかという人類共通の無意識の恐怖を、眼に見える形で表現したという点にあるのです。

この無意識下に或る「いつか思いもかけない不幸が降りかかる」が日常生活では意識されないのは、こんな事を考えて生活していれば精神疾患になってしまうからで、そんな危険な意識に直面してしまう事を「恐怖」と呼ぶのではないでしょうか。

だから、ヒッチコックは「サスペンス」の巨匠なのです。

さらにこのサスペンスを描くにあたって、この監督の優れた資質にサイレント時代からの技術的蓄積があります。
それは言葉がなくとも画面に対立や緊張を作り上げられる表現力であり、この画だけで全てを語れる技術があったからこそ、映画的サスペンスを表現できたのだと個人的には思っています。

たぶん、言葉で説明できてしまえば、画面にサスペンスを表現するための技術は決して発展しなかったのではないでしょうか。
個人的には、映画的な技術、それもサスペンスのモンタージュ技法などは、この人がいたから確立したというべきだと思うのです。
つまりは今ハリウッド作品の相当の割合を占める、スリルとサスペンスも、この人がいたからこそ映画的な話法が完成したといっても過言ではないでしょう。

その証拠に現代のハリウッド作品を見ても、ヒッチコック監督のサスペンスの表現にソックリな語り口を見る事ができますし、明らかに映画文法としてスタンダード化されています。

しかし、この監督の「無言の表現力」に変わって、うるさいぐらいのカット割りや手持ち撮影の効果による「雄弁な表現」になったおかげで、人の言葉に出来ない無意識の恐怖を抽出する力は衰えたようにも思うのです。

いずれにしてもこの映画は、ヒッチコック監督のそんな映画パイオニアとしての能力を示した一作です。
これはサイコ・ホラー(映画「サイコ」)で、新しいサスペンスの表現を生み出したあと、更に新たな地平を目指して「動物パニック」というジャンルを確立した世界で最初の一本です。

たぶん今見れば、サイコも、鳥も、デザイン的にありふれた映画と映るかもしれませんが、実はその当時1963年には世界で誰も見た事のない恐怖だったのです。
しかし、アイデアというのは一度出てしまえば、後からくる人はその刺激的な部分を更に拡大していきます。
結果的に、そのジャンルを切り開いたパイオニア作品は、後年から見れば刺激的ではなくなるという運命を迎えざるを得ません。

しかし、それこそがパイオニアの宿命だとすれば、今見て平凡に見えるという事こそ、そのジャンルでどれだけのフォロワー作品が生まれたかの証明ではないでしょうか。

そんな最初の作品を作る勇気を先人が持ったからこそ、次の世代が花を咲かせられるのだという事で、映画史的な評価として満点を送りたいと思います。

関連レビュー:サイコ
関連レビュー: ヒッチコック映画術

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posted by ヒラヒ・S at 19:07| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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