2016年06月24日

『ニュー・シネマ・パラダイス』映画ファンに捧げる傑作の感想

映画こそ天国



評価:★★★★★  5.0点

この映画はイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレの、間違いなく映画史に残る名作だと思う。
イタリアのシチリアを舞台にした、ノスタルジックで甘美な物語だ。
幼いトト少年と映写技師アルフレードが心を通わせていく様子を、美しく懐かしい音楽とともに描き出す。

しかし、これまでに見てきたイタリア映画からすると、若干の違和感を感じたのも事実だ。
イタリア人というのが家族を大事にし、さらには「マンマ・ミ〜ア」という母系中心の家族体系だとの印象を持ってきた。

しかしこの映画の場合、母親は主人公の「トト少年」を叱り、彼の望む場所「アルフレード」から、強引と言ってもいい力で引き剝がそうとする。
また同時に、母親こそが全てのイタリア人の少年なのに、「トト」は母から必死に逃れて「アルフレード」と共に過ごす方を選ぶ。

また、この「トト」には、第二次世界大戦で戦死してしまって父親がいない。
その欠落を埋めるように、アルフレードという村の映画館の映写技師が、幼少期の「トト」を人間的に育てると映画は語ているように見える。

しかし、その文脈でいくと、母は親代わりのアルフレードを認めないことで、家族の絆を断ち切り、同時に「トト」は母よりも父を選ぶという、反イタリア的な家族の物語になってしまう。
しかし、それなら何故これほどイタリア的なノスタルジックな主題歌を準備したのだろうか。



いろいろと考えるうちに、彼「アルフレード」は真に父としての役割を担って、この映画に登場したのだろうかという疑問を持つようになった。

本来「トト」の父であるならば、トトの母から頑なに拒否されていることに違和感を覚える。
また「トト」が「アルフレード」に対して異常に執着し、本来の親子にあるべき精神的な離反が見えないところも、本来の意味での「父親」という役割をこの映画の中で求められているとは考えづらい。

結局「アルフレード」は、映画内で、別の関係性を持って物語に登場しているのだと思われる。

その役割がはっきりするのは、物語の中盤である。
彼は映画フィルムを焼失する場で、失明する。
フィルムが焼けると同時に映写技師としての役割を喪失する、この共時性は、彼が映画の擬人化された象徴である事を意味するとしか思えない。
さらに、この「アルフレード」が「映写技師」を失明により続けられなくなり、その後を「トト」が引継ぐとき、それは「アルフレード」に変わって「トト」が「映画」となって生きるということを意味しただろう。
そう考えた時、「トト」は映画という幻影に育てられた存在であり、そして自ら「映画」を生きる者となったと考えるべきだろう。

それゆえ、母が厳しい叱責と共に、幼少期に息子を「映画=アルフレード」から引きはがそうとする理由も了解されるのである。
 
母親には分かっていたのだ、現実を生きない者が不幸になる事を・・・・
 
あまりに美しく、完璧な世界を目にしたとき、それが「幻影=映画」だと分かっていても・・・・愛し執着するものではなかろうか。
そしてまた、美しい幻影に生きてしまえば・・・・現実世界が醜く、猥雑で、嫌悪すべき場所に思えてきはしまいか。

なるほど現実は生きられねばなるまい・・・・・・しかし生きるのが困難なのが現実でもある。
トト少年は父の不在という辛い現実を、「映画」を「父」として生き抜いたのだ。
もし現実に適合できなかったならば、それは「親=映画」の責任に違いない。

そう思えば、青年、成人となった「トト少年」の現実世界の不幸は、「幻影」に依存してきた者の当然の帰結であったかもしれない。

そして現実世界に絶望した「成人トト」は、「美しき幻影=映画」の中で人生を生きざるを得ない。
結果的に「トト」は「映画監督」として成功した、しかし、それは映画文脈の上から追って行けば「現実世界不適合」を意味すると解釈すべきだと思う。

結局、この映画で語られる「幻想世界と現実世界の対立」は、現実を生きなければならない人間にとって、常に「現実世界」の勝利で終わるという自明の結論に至らざるを得ない。

しかし ―

監督ジュゼッペ・トルナトーレは、自らも幻影に育てられた一人として、この映画の「最後=ラストシーン」で言う。
無限の慈しみを持って、郷愁とともに、「トト少年」が如何に幸せで、豊穣で、歓喜に満ちていたかを。
目くるめく幻影イマージュの内にある事がどれほど幸福であったかを。

そして私は思う ― 

それらの美しきイマージュ達こそ、自分自身に他ならないことを。
どんなに現実が苦しいものになっても、自らを創っているイマージュに殉ずる運命にあることを。
その「運命」を引き受てでも、美しき幻影たちとともに生き続ける価値が在ると、この映画は教えてくれる。

このラストを見れば映画を愛する者なら、やはりこういわざるを得ないだろう・・・・・

シネマ・パラディソ、映画こそ天国だと。


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posted by ヒラヒ・S at 19:33| Comment(4) | TrackBack(0) | イタリア映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
映画好き必見の名作ですね!
これは映画ブログをやるなら一度は観ておかねば!
5.0も納得の評価です!
Posted by いごっそ612 at 2016年06月24日 19:53
>いごっそ612さん

名作ですよね〜(^^)ベタ過ぎて、レビュー書くのも気恥ずかしい位ですが・・・・。でも、あのラスト、あのラストの感動をお伝えしたい。映画好きにはたまらないですね〜
Posted by ヒラヒ・S at 2016年06月24日 20:48
おこんばんは〜「5」で嬉しいのは亡きじいちゃんがこの映画を絶賛していたからです。今でも覚えてます♪(^◇^)そして私は観ていないという・・・💦焦ります。
Posted by ともちん at 2016年06月24日 22:08
>ともちんさん

ありがとうございます。見てないんですね〜うらやまし〜。
このカンド〜を初体験できる。うらやまし〜ですm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2016年06月24日 23:46
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