2016年09月20日

映画『英国王のスピーチ』神ならざる王の苦悩の実話/感想・あらすじ・感想・意味

王と神と人間と



評価:★★★★★  5.0点

「王権神受説」という言葉を、歴史の授業で学んだことを思い出した。
そもそも、かつて王とは神であった。
神ゆえに、国を統べる資格を持ったのである。



英国王のスピーチあらすじ
ジョージ6 世(コリン・ファース)は妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)にとともに、セレモニーのスピーチの場に立つが、幼い頃からの吃音により失敗してしまう。厳格な父英国王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)は、そんなジョージにスピーチの重要さを説き練習を強いる。ジョージは妻と共に数々の吃音修正の専門家の下を訪ね歩く。そんなある日、スピーチ矯正の専門家・ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)のもとを訪ね、そこで行われたユニークな訓練によって、スピーチ改善の可能性を感じたジョージは彼に師事する。そんな中、1936年ジョージ5世が亡くなり長男のエドワード8世(ガイ・ピアース)が王座に付くが、すぐに退位してしまい、ジョージは望まぬ王座でスピーチをする立場に追い込まれる・・・・・

(イギリス・オーストラリア/2010/118分/監督トム・フーパー/脚本デヴィッド・サイドラー) 第83回アカデミー賞、作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞受賞

かつて王は神であったといえども―
「神の絶対的権威」は近代において圧倒的な敵を前に、臨死状態を迎えることとなる。
即ち、共産主義といい、民族主義に基づく軍国主義といい、さらに決定的な役割を果たした民主主義という怪物は、ついに絶対者をも「多勢の声」を武器に解体せしめる。

この映画の主人公「ジョージ6世」は、「神の喪失」した時代に「王」とならざるを得なかった。

そう思えば、彼は「王」でありながら「神」ではないという、「自己存在の喪失」ゆえに、言葉を発する事ができず「吃音症」となったと解するべきであろう。
大衆は、過去の「神に連なる王」達を期待しつつも、同時に現代の王が「神ではない王」である事を知っている。
その大衆に向かって「神ではない王」は、生身の人間として「神に連なる王」に匹敵する存在である事を、証明しなければない。

それは、「人」でありながら「神」に挑戦することに等しい。
この不可能に挑戦することを義務づけられた、史上初の王こそ「ジョージ6世」であったろう。
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左/ジョージ5世:中/ジョージ6世/右:エドワード8世

神として存在した父王ジョージ5世は、その厳格さを持って神になることをその子供に強制した。しかし、既に神の時代が終わったことを悟った、兄エドワード8世はさっさと神の場所を放棄し人間として俗世に下りていく。残されたジョージ6世は、神にもなれず、俗人にもなれず、その中間で逡巡せざるを得ない。

この映画は、その「神ではない王」の苦闘とその克服を、繊細な演出と、存在感のある演技によって丹念に描き感動的だ。

生身の人間が「神」に近づくための道が、主人公とその協力者の言語療法士が取った方法に示されているように思う。

身分や生い立ちを消し去り、己を人間存在のまま認識すること。
素の人間存在となった時、自らの内に「神の似姿=徳性」を人は見出すに違いない。
その内なる「神の徳」を認識した人間の言葉は、自ずと「神性」を持って響くであろう。

この療法士は、それまで「平等の立場」として主人公の前に立ってきたにも関わらず、演説の後に初めて「陛下」と呼ぶ。

それは、主人公が過去のしがらみを捨て去り「素の人間」から、「己の神性」を発見し、真に「神につながる人間存在」=「王の属性」を、その「言葉」によって伝えたからに他ならない。

ジョージ6 世による1938年スコットランド・グラスゴーの帝国博覧会の開会スピーチ
スピーチの途中で口ごもったり、一瞬どもったりするのが見て取れる。

人は誰でも「自らの中に神性」を見出せるのだというメッセージが、静かに、だが確実に、物語の中に埋め込まれており、見る者の無意識にそっと染み込むようなその語り口も、大変魅力的だと感じた。


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posted by ヒラヒ・S at 16:36| Comment(4) | TrackBack(1) | イギリス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは❗(ФωФ)しゃべりが下手くそだろうと国民はあなたの声を待っている。深い映画ですよね。トップがいい人だとサポートする人たちもいい人が集まるのでしょう、、、
Posted by ともちん at 2016年09月20日 18:29
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)
いい映画でしたねぇ〜しかし、本当のジョージのほうがイケメンじゃないですか?
Posted by ヒラヒ・S at 2016年09月20日 18:31
コリン・ファースが名演でしたね〜。
なかなか心に残る良い映画でした。
実話っていうのが凄いですよね(*‘∀‘)
Posted by いごっそ612 at 2016年09月22日 06:24
>いごっそ612さん
ありがとうございます(^^)
王様は大変ですね〜父王に相当イジメられたみたいですし・・・でも戦争を乗り切ったことを考えれば、ちょっと泣きそうに(T_T)
Posted by ヒラヒ・S at 2016年09月22日 12:42
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