2017年01月19日

撮影12年!映画『6才のボクが大人になるまで』/感想・解説・ネタバレ・ラスト・意味

現実を超えて輝く映画



評価:★★★★   4.0点

ある映画監督が「現実より優先される映画がある」と言った、その言葉を思い出しました。
この映画は、奇跡のような輝きを発する、価値有る労作だと最初見た時感動しました。
その感動とは創作物、人工物が、現実を超えて価値を発揮する「現実より優先される映画がある」ことを証明した作品だからだと信じています。

<6才のボクが大人になるまで・あらすじ>

テキサス州に住む6歳の少年メイソン(エラー・コルトレーン)は、母(パトリシア・アークエット)に従い、姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)と共にヒューストンに転居、そこで思春期を過ごす。アラスカから戻って来た父(イーサン・ホーク)と再会し定期的に逢うようになる。母はキャリアアップのために大学で学ぶなか大学のウェルブロック教授と再婚し、教授の二人の連れ子と共に6人の生活が始まった。しかし、義父の暴力により、親子三人で家を出る。幸い母親オリヴィアが大学教師の職を得てオースティン近郊に移った家族の新たな生活が始まり、そこには母の新しい恋人が加わった。メイソンの父は保険会社に就職し、恋人のアニーと再婚し、赤ん坊も生まれている。奨学金を得て大学進学を決めたメイソンは18歳となり、高校卒業の日に、家族パーティーが開かれた。メイソンは写真家を目指し、母親の元を離れ一人大学へと旅立つ・・・・・

(原題Boyhood/アメリカ/2014年/165分/監督・脚本リチャード・リンクレイター)

<6才のボクが大人になるまで・受賞歴>

第64回ベルリン国際映画祭 監督賞 リチャード・リンクレイター
アカデミー助演女優賞(2015年) パトリシア・アークエット
ゴールデングローブ賞 映画部門 作品賞(2015年)
ゴールデングローブ賞 映画部門 監督賞(2015年)リチャード・リンクレイター
ゴールデングローブ賞 映画部門 助演女優賞(2015年) パトリシア・アークエット
英国アカデミー賞 作品賞(2015年)
英国アカデミー賞 監督賞(2015年)リチャード・リンクレイター
英国アカデミー賞 助演女優賞(2015年)パトリシア・アークエット

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「6才のボクが大人になるまで」感想・解説
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この映画で語られるべきは、まずその手法についてでしょう。
Boyhood-12.jpg
なんと、6歳の少年が18歳になるまで、12年間撮影し続けたのです。

それは少年役のエラー・コルトレーンだけでなく、主要人物4人を同じ俳優が12年間演じ、それぞれの人物の変遷を165分という映画の時間で見られるのです。

boyhood-4p.jpg
主人公の母であるパトリシア・アークエットと、父を演じたイーサン・ホークも12年間この映画に関わり続けました。

これは、間違いなく映画史に残る事件であり、作品だったと思うのです。
もちろんこれ以前にも、トリュフォー監督が少年の成長に合わせて撮った4部作『ドワネルの冒険』シリーズも有りますが、それはその時点で完結する作品群であり、この映画のように12年の長期に渡り製作に時間を費やしたものではありませんでした。 
それはリチャード・リンクレイター監督の恋愛三部作『ビフォー・サンライズ』『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』で描かれた、恋人達の1995年の出会いから2013の結婚生活までを描いた作品も同様です。
リチャード・リンクレイター監督の恋愛三部作

つまりは上記2シリーズとは、現実の一時を取り込んだ作品でした。
しかし、この『6才のボクが大人になるまで』は12年間もの長期に渡り継続して撮影した点が、この作品を価値あるものにしていると思うのです。

Boyfood-doghter.jpgここで生み出された価値、この映画が表現したものとは、明らかに虚構としてのドラマでありながら、同時に現実世界の12年間を165分に内包した映画であるということです。

この映画は明らかにフィクションでありながら、しかし間違いなく12年という歴史を、この映画に記したのです。


しかしここで重要なのは、12年という現実世界が「嘘=映画」に力を与える為に奉仕している、従属しているという事です。

Boyfood-patorisia.jpgそれは、12年の内に出演者に何かあれば、映画のストーリーが変わらざるを得ない事を考えても、その期間、俳優という現実存在が「嘘=映画」に従属し、奉仕していると言えるでしょう。

つまりは、この現実を構成要素として組み込んだ作品によって、初めて「嘘=映画」を現実の人間が生きる事も出来るのだと示され、現実と虚構が渾然一体となった世界が生まれたのです。

しかもその、フィクションの持つ抽象化や理想化を手にし、現実を従属したこの映画は、一つの革命的な概念を示していると思います。

それは、クドイようですが「現実に優先する映画」が存在するという事実です。

mibu-katinko.jpg
創作物の歴史を紐解けば、現実世界を人工的な観念で裁断して「フィクション」として理想化し描いてきた「創作物」「理想フイクション=神話」から始まったはずです。
しかし、そんな「理想フイクション」は複雑な現実の前に最早、理想を語れなくなってきました。
そして、2000年以降を考えれば、実話を元にした「現実依拠フィクション」の数がどんどん多くなってきて、この傾向はたぶん変わらないだろうと思います。

それは、すでに人間が作り出してきた理想や宗教によって、現実世界を制御し得ないという諦めに原因があるのではないかと感じられます。

結局、今までの「理想フイクション」で世界の苦難を救済し得なかったがゆえに、「現実依拠フィクション」が増加してきたのであり、それは人々の理想に対する信頼の低下によって生じた必然だったようにも感じるのです。

だとすれば、「現実依拠フィクション」とは「フィクション=創作物」が「現実」に敗北する過程に他ならないでしょう・・・・・・・

BOYHOOD-vietical-long.jpg
そんな「創作物=理想世界」に現実が勝利しようという状況に対し、この映画が示したのは「創作物=理想世界」の反撃だったと思うのです。

つまりは、近代以降の「創作物」が現実に押されている現状に対して、この映画は12年間という現実を「創作世界」へ導入し従属させる事で、現実世界に優先する「創作世界」を再び表現し得たのだと信じます。

「創作世界」の特徴である、複雑混迷した現実を整理し裁断する分析作用と、その世界分析に基づく「世界を導く理想」の姿は、「創作物」のみが持つ大いなる力だと思います。

そして、世界が反グローバリズムに転じようとしている今こそ、「世界を導く理想」を取り戻さなければならない時だろうと思うのです。
そういう意味でこの映画は、現実に対する「創作世界=理想世界」の復権を語った映画だと信じます。

・・・・・・・と書いて来てはいますが、それはこの優れた撮影手法に対する評価です。
実を言えば映画自体は少年の記念アルバムの様ではあります。
boyhood-getprize.jpg
多分リンクレイター自身の狙いは、アメリカ人の誰もが経験したであろうこの12年を記録する事で、一種のノスタルジーを感じさせる事だったろうと思います。

監督のリンクレーターも、意識的にその年の出来事、ヒット曲、ヒット商品を画面に取り込んだといいます。
「たまごっち」「アイマック」「スマホ」など、あ〜あの時は私はどうしていたナンテ、観客の中の自分史も蘇らせる映画だともいえます。

実際、アメリカ人のレビューを見ると、この映画に自分がいるという思い込みの強さが、この映画評価に一役買っているようです。

残念ながら、日本人の私にとっての12年の記録ではなかった点で、★一つの減点をさせていただきました。
正直言って、ここには『スタンド・バイ・ミー』にあるような、人類共通の成長過程を表現した作品には成り得てないと思わざるを得ません。
boy-rink.jpg
そういう意味ではリンクレイター監督のこの映画は、「現実」と格闘しつつも「虚構」の完全勝利には至っていないように思いました・・・・・・


もっと、フイクション方向に物語を振って、例えば6才の少年と少女を許嫁にして両者の変化を虚実取り混ぜて描く位の事はしてほしいと思ったりしますが・・・・・・

まずは、この手法の最初の一作として「歴史的価値」を刻んだということで、次に期待しましょう。


「6才のボクが大人になるまで」サウンドトラックから
Family of the Year の歌う”Hero”

12年間を彩ったアメリカのヒット曲が年代ごとに流れるのも、懐かしい気持ちを呼び覚ますと思います。

当ブログ関連レビュー:
リチャード・リンクレイター監督作品


○ビフォア・サンライズ

○ビフォア・サンセット


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以降「6才のボクが大人になるまで・ネタバレ」ですので、ご注意下さい。
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成長したメイソンは、高校の卒業を目前に失恋も経験するが、カメラマンの道を目指し大学進学を決めた。
そして高校を卒業し、家族みんなでパーティーをする。

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進学する大学も決まり、母との生活が終わりを告げる日が来る。
メイソン旅立ちの日

【意訳】
メイソン:ねえ・・・これまた入れた?(ママ笑う)いらないんだけど。/ママ:そんな、あなたが最初に撮った写真じゃない。/メイソン:そう、つまり、それがこれを残す理由の全てだよ。(ママ泣く)何だよ?/ママ:何でもない。/メイソン:なに、どうしたの?/ママ:何でもない。/メイソン:ママ・・・/ママ:今日は人生最悪の日よ。/メイソン:なに言ってんだよ。/ママ:私はこの日が来るのは知ってたけど、私はただ、あなたがそんなに嬉しそうに出てくなんて知らなかったの。/メイソン:いや、そんなうれしいってワケじゃ。何を期待していたんだよ?/ママ:私がどう思っているか分かる?私の人生は終わったの、こんな形で!人生はマイルストーンの連続。結婚して、子供を生んで、離婚して、あなたが失読症だと思った時、私があなたに自転車の乗り方を教えた時、また離婚して、修士号を取って、最後に私のやりたい仕事に就いて、サマンサを大学にやって、あなたを大学にやる・・・・・次が何かあなた分かる?ええ?次は私のクソ葬式よ!とっとと行って、私の写真を残せばいいわ!/メイソン:ナンか、40年かそこいら先に、ママの頭は飛んでるんじゃない?/ママ:私はもっとだと思うわ。


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「6才のボクが大人になるまで・ラストシーン」
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大学に進学し寮に入ったメイソンは、友達と近くの峡谷へ行く。そこでニコルという少女との会話で映画は終わる。
BoyHood-las.jpg
【意訳】
ニコル:ねえ、何でみんな「今を掴め」っていうんだろう?(メイソン頷く)私はちょっと、良く分からない。他に方法もあると思えて・・・・・今の方が私達を掴んでるんじゃないかと思える。/メイソン:そう、そう、分かる。今この時って、それはちょうど・・・・それって、いつでも今だし、分かる?/ニコル:そうだね。


今は今で、常に今を刻んでいるという「真理」を、映画に封じ込めた映画でした。
たぶんこの映画は、この後も今であり続けるために、まだ撮影がされてるように思います・・・・・

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posted by ヒラヒ・S at 16:56| Comment(4) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは(´・ω・`)これはCMで知って気になってた映画です。よく途中で立ち消えにもならず・・すごいですよね!イーサン・ホークさんですか〜お母さんは霊能者アリソン役の人だ!(海外ドラマミディアム)観ます(笑)
Posted by ともちん at 2017年01月19日 17:53
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)お母さんは霊能者アリソンの人だったんですね(^◇^)やっぱり労作という感じが・・・・・時間が刻み込まれたスゴミがありましたm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2017年01月19日 18:35
4人の俳優が6才から18歳までの12年間家族を演じ撮影したという、映画史上初の挑戦から生まれた映画!観ています!

レビュアンさんの記事で自分が観たことある映画が出る確率はめちゃ低いので嬉しいですね(´∀`)

エラー・コルトレーン6歳から18歳の軌跡がすごいですよね!

面白かったす(´∀`)
Posted by いごっそう612 at 2017年01月19日 19:50
>いごっそう612さん
ありがとうございます(^^)やはり心打たれますよね・・・最早映画を生きているという・・・・
いごっそうさんがスゴイのは、私がちょっと新しい映画を上げると必ず見ているところです。
逆に私はどれほど最近の映画をみていないか、いごっそうさんのブログを見て思い知りますm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2017年01月19日 21:10
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