2017年01月28日

映画『アンダーグラウンド』神話の成立を解説・あらすじ・ネタバレ・ラスト

ユーゴスラヴィアの半世紀



評価:★★★★  4.0点

この映画は旧ユーゴスラヴィアの50年、半世紀に渡る苦難の物語だ。
そのジプシー音楽に乗せて語られる物語は、狂騒的で不穏でファンタジックな顔を持っている。
そんなこの映画は、伝説・神話がなぜ成立するかを教えてくれる秀作だと思う。
アンダーグラウンドあらすじ

セルビアの首都ベオグラードは1941年、ナチス・ドイツの侵略を受けた。策略家のマルコ(ミキ・マノイロヴィチ)は友人の電気工ブラッキー通称“クロ”(ラザル・リフトフスキー)を誘い、チトーの共産パルチザンに参加し伝説的な人物となる。マルコは自分の祖父の屋敷の地下室に弟で動物園の飼育係だったイヴァン(スラヴコ・スティマッチ)やクロの妻ヴェラ(ミリャナ・カラノヴィチ)たち避難民をかくまう。そんな中ヴェラはクロの息子を産み死んでしまった。クロは女優のナタリア(ミリャナ・ヤコヴィチ)に恋して、ナチス軍将校フランツ(エルンスト・ストッツナー)の愛人だったナタリアを、フランツの面前でさらい、強引に結婚式を挙げる。しかしクロは独軍に逮捕され激しい拷問を受ける。マルコはクロを救出に向かい、脱出に成功する。しかし、その際クロは手榴弾を暴発させて重傷を負い、マルコの地下室に匿われたまま、45年の終戦を迎える。地上ではチトーが大統領となり共産主義国ユーゴスラヴィア連邦が成立していた。
<第二部 冷戦>1961年のユーゴスラヴィアでマルコはチトー政権の実力者となり、女優ナタリアは彼の妻だった。一方のクロは、未だマルコの地下室に隠れたままだった。マルコの策略で戦争が継続中だと思わせ、地下の人々を騙し、武器を製造させ外国に密売して、私服を肥していたのだ。さらにマルコはクロをパルチザンの英雄として宣伝し、国に殉じた英雄に祭り上げていた。時は流れ地下室でクロの息子ヨヴァン(スルジャン・トドロヴィチ)の結婚式が行われ、狂乱の宴が繰り広げられる中、ついには誤って戦車が砲撃を始め、その隙に地上に出たクロとヨヴァンは、マルコが撮らせていた英雄クロの伝記映画の撮影現場に出くわし、ドイツ占領下にあると信じているクロは将校フランツ役の俳優を射殺する。ヨヴァンは混乱の中姿を消した、妻を求めて川に入り行方知れずとなる。マルコは欺瞞が暴かれた事を知り、自殺したと見せかけ地下室を爆破、秘密の地下道に逃げ込んだ
<第三部 戦争>1992年、チトー政権はもうなく、ユーゴスラヴィアは分断され戦争の渦中にあった。あの混乱で地下道路に入ったイヴァンは、ベルリンまで行き兄マルコが悪名高い武器商人だと知る。イヴァンは故国に帰り兄マルコに復讐をする事を誓う。マルコとナタリアは武器商人として裕福な生活をしていた。一方のクロは行方不明の息子ヨヴァンを探しながら、軍隊の隊長として“ファシストの糞野郎ども”と闘いつづけていた・・・

(英語題 Underground/フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリア合作/1995年/171分/監督エミール・クストリッツァ/脚本デュシャン・コバチェヴィチ、エミール・クストリッツァ)
アンダーグラウンド受賞歴

カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞


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アンダーグラウンド感想・解説
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この映画は、音楽と、ヴィジュアルと、ストーリーの全てが、騒がしく狂おしい。
物語の基調はコメディーのおかしみを湛えつつ、なぜか哀しい。
そして何よりも、現実離れしたファンタジーとして成立していると思われてならない。
しかしこの映画のファンタジー性とは、幻想や不思議を描くために導入されたのではなく、現実を「伝説・神話」に変換する機能としてファンタジー性が求められたのではないかと感じた・・・・・
ファンタジックな結婚式

この映画が、ユーゴスラヴィアの現実に依拠しながら、こうもファンタジックな表現を持つ理由がユーゴの歴史に隠されていると個人的には感じた。
ユーゴズラヴィアの歴史

第一次世界大戦前夜、「汎スラブ主義=世界中のスラブ人の団結」の中心がセルビア王国で、スラブ民族で統一国家建設が悲願だった。しかし欧州の大国家オーストリア・ハンガリー帝国がスラブ民族の住む地域を併合しており、それを許さない。様々な摩擦が両国間で生じる中で、ユーゴスラビアが位置するバルカン半島は「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれるようになる。
そして、ついにオーストリア帝国の皇太子がセルビア人青年に暗殺された「サラエボ事件」が発生した。ついには、オーストリア帝国がセルビア王国に宣戦布告し、第一次世界世界大戦に発展した。(下:1914年の欧州地図)
euro1914.PNG

第一次世界大戦の結果、セルビア王国は甚大な被害を受けたが、戦争の原因が帝国主義にあったという反省のもと、戦後処理のべルサイユ条約でも民族自決の原則が盛り込まれ、汎スラブ主義実現の機運が高まる。
そうして、セルビア、モンテネグロ、クロアチア、スロベニアの4つの地域・民族が集まった 「ユーゴスラビア(南スラブの意)王国」が成立した。
しかし、南スラブの同族といえども、歴史的経過の中で民族ごとに独自の文化を持つ多民族国家。新国家体制が旧セルビア王国中心でセルビア人が支配的になるにつれ、理想に燃えていた他民族に不公平感が生じ不満が積のった。
ついには国王が暗殺される事態となり、政府は融和策として、諸民族の中で独立急進派のクロアチア人に「クロアチア自治州」を認めざるを得なくなる。しかし分離独立を目指す民族主義者は、独立国を求め更に運動を激化させる。時代は第二次世界大戦に突入し、クロアチア人はドイツ軍の侵略に加担しセルビア人へ激しい攻撃を加え、最終的に独立を獲得した。

第二次世界大戦が終結しユーゴスラビア王国は、甚大な被害を蒙ったもののドイツ軍は敗退撤退した。
その戦いを通じて、チトー率いるパルチザンが国民の信望を得て、チトーは大統領に就任し国名をユーゴスラビア「社会主義連邦共和国」とし、クロアチアをユーゴに再び併合した。
第二次世界大戦後は、ソ連の共産主義圏の中で独自性を維持しつつも、ソ連の強い影響下にあった。仮に民族紛争が発生すれば、ソ連の介入を生みかねない中で民族間の対立は表面化しなかった。しかし1985年にミハイル・ゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任して「ペレストロイカ」政策を唱え、1980年にチトーが死去すると、それまで抑えられていた民族間の対立感情が噴出する。
yougo~1990.png連邦制下にあったスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアの6つの共和国と、セルビア内のヴォイヴォディナ、コソボの2つの自治州はそれぞれ民族の分離独立を叫び、そんな民族主義の運動に加え地域による経済力格差によって、市場経済導入の混乱が地域間の不均等を増大させた。

こうしてユーゴスラビア紛争が本格化し「独立を目指す各民族」が「セルビア」から武力によって独立し続ける。
1991年、クロアチアとスロベニアが独立を宣言。連邦(セルビア)は2国に対して武力侵攻し、スロベニアは10日間で鎮圧。しかしクロアチアとは1995年までクロアチア紛争が継続した。(下:クロアチアのプロパガンダCM)

youugo-funnso.jpg1995年、国連がクロアチアの独立を認める一方、クロアチア側は国内の一部をセルビア人居住区として分離してセルビア共和国へ併合することを認めるという形で合意しクロアチア紛争が終結。
さらに1992年、ボスニア・ヘルツェゴビナが独立宣言し「ボスニア紛争」が勃発。
国土をクロアチア人・ムスリム人の国としての「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦(首都サラエボ)」とセルビア人の国としての「スルプスカ共和国(首都バニャルカ)」に分離することで紛争は終結。
紛争決着により各地のセルビア人難民を、共和国内のコソボ自治州へ移植させようとしたセルビア共和国政府に対し、自治州内の90%を占めるアルバニア系住民の民族派が反発し、「コソボ紛争」も発生した。
マケドニアも1992年に独立を宣言し、紛争を経ずに独立を果たしたものの、コソボ紛争の余波によりアルバニア人勢力との間で2001年「マケドニア紛争」も発生した。
2002年、ユーゴスラビア連邦は各国の独立を受け、セルビア・モンテネグロと国家体制を取る。
2006年、モンテネグロも独立。セルビアは単一国家となり、ついにユーゴスラビア連邦は消滅した。

正直言って、共産圏の崩壊以後のユーゴズラヴィアの歴史とは血の抗争の歴史だ。
1990年という、第二次世界大戦後50年も過ぎようかというときに、隣人同士殺し合い、レイプされジェノサイド(民族集団虐殺)まで発生した。


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つまり、この映画はそんな過酷な現実を語らなければならない時、あまりの痛みにリアルに事実を語れないが、それでも語らなければならないという相克の果てに、苦肉の策で生まれた狂騒的なファンタジー表現だったのではないかと感じた。

それは睡眠時の「夢の作用」と同じ精神的作用だったろう。
つまり、人は現実に起きたつらい経験や苦悩を整理・消化しなければ生きていけない、それゆえ夢の中でその体験を解消しようと努めるのだ。

しかし夢によって、大事な睡眠を妨げる事は休息を損なう危険な事態だ。
それゆえ夢は、睡眠を妨げず、つらい体験を解消できる道を選ぶ。

例えば、線香をバキバキと折りまくり、火をつけて香のにおいが立ち込める中で、高笑いしている夢。
これが、昼間学校の先生に怒られたストレスを解消するための夢だったりする。
つまり線香は先公であり、先生を痛めつけ、ストレスを解消したいという欲求を満たしたいのだが、さすがに先生を直接殴っている自分をそのまま夢で見ればビックリして覚醒してしまう。
それゆえ、線香というシャレで変換をかけて、負荷の少ない形で夢見るたりするのである。


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精神分析学の始祖フロイトは「夢判断」という著書の中で、詳細に夢の変換・置換・圧縮作業を語っている。
フロイトは夢において充足させようとする願望を、意識が検閲し明確化することを妨げようとする作用があり、その意識による夢の検閲を回避するために、無意識は願望を間接的な歪曲した表現とするという。


つまり、つらい経験を意識する事、不幸を語る際に、その現実を直裁に表現するのは甚だしいストレスが生じるのではないか
それゆえ、現実を異化しファンタジーへと変換して語ることが、必要になるのではないかと思うのである。
つまりこの映画で示されたものは神話・伝説の誕生であったろう。

それはこの現代を生きた同時代人において、甚だしい苦痛・不幸・絶望・苦難・衝撃・悲劇・悲哀・喪失を経験した人々がいたという事実を示すものだと感じられてならない・・・・・・・

エミール・クストリッツァ監督作品の紹介動画

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以降
アンダーグラウンド・ネタバレ」と
アンダーグラウンド・ラストシーン
を含みますので、ご注意下さい。
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イヴァンは裏切り者の兄マルコを見つけ、杖で殴り続ける。そして、自らは教会で首を吊った。
息も絶え絶えのマルコとナタリアは、兵隊に拘束された。その軍を指揮していたのがクロだった。クロは兵士より無線で連絡を受け、マルコとナタリアとは知らず、二人の処刑を命じる。
クロは友だった男の死を知って、かつての地下室を訪れ、井戸の中にヨヴァンの姿を見る。
次の瞬間、彼は水の中で最愛の息子に再会していた。
スクリーンショット 2017-01-28 19.52.26.jpg


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アンダーグラウンド・ラストシーン
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楽園のような川辺で、ヨヴァンの結婚式が楽しそうに行われている。イヴァンがカメラに向かい「苦痛と悲しみと喜びなしには、子供たちにこう語りかけられない。昔、あるところに国があった」と語りかける。
音楽がいつまでも楽しそうに鳴り響く中、いつしか死者達も席を連ね、宴はやがて大地を離れてドナウ河を流れていく。

世界は過去と未来の歴史を乗せて、不可避的に、運命的に、時を流れ行くのだ・・・・・

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posted by ヒラヒ・S at 20:32| Comment(4) | TrackBack(0) | フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは〜ユーゴスラヴィア・・何か聞いたことある(笑)くらいの認識です( ̄▽ ̄;)歴史の勉強💦映画のい予告はコメディぽいですよね。
Posted by ともちん at 2017年01月28日 21:43
おお〜なんともレビュアンさんらしい映画ですね(´∀`)
なかなか味のある映画っぽいっすね。
そうそうPVっすけど20万いってましたわ(笑)
自分が見てたやつはセッションでしたPVでは無かったです。
PVは22万くらいでした。
Posted by いごっそう612 at 2017年01月28日 22:10
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)ファンタジックな映画ですが、予備知識なしでみると、なんだか分からない映画となりそうなので、くだくだしく説明してみましたm(__)m
Posted by ヒラヒ・S at 2017年01月28日 22:15
>いごっそう612さん

ありがとうございます(^^)
おお〜PV20万て最早伝説ですね〜拝んどきますm(__)m
後は記事が積み上がるごとに更に増える一方ではないですか!
Posted by ヒラヒ・S at 2017年01月28日 22:18
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