2017年09月01日

映画『ディア・ハンター』鹿狩りとロシアンルーレットの意味/感想・解説・受賞歴・脚本問題

『ディア・ハンター』(感想・解説 編)



原題 The Deer Hunter
製作国 アメリカ
製作年 1978
上映時間 176分
監督 マイケル・チミノ
脚本 デリク・ウォッシュバーン
原案 マイケル・チミノ/デリク・ウォッシュバーン/ルイス・ガーフィンクル/クイン・K・レデカー

評価:★★★   3.0点



この映画は、ロシアン・ルーレットの脚本が先にあり、後ベトナム戦争の部分を加えたといいます。
そんな経緯ゆえに、どこか混乱した映画になっているようにも思います。

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『ディア・ハンター』予告


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『ディア・ハンター』出演者


マイケル(ロバート・デ・ニーロ)/ニック(クリストファー・ウォーケン)/スチーブン(ジョン・サヴェージ)/スタンリー(ジョン・カザール)/リンダ(メリル・ストリープ)/ジョン(ジョージ・ズンザ)/スチーブンの母(シャーリー・ストーラー)/アクセル(チャック・アスペグレン)/ジュリアン(ピエール・セグイ)/アンジェラ(ルターニャ・アルダ)/プリースト(ステファン・コペストンスキー)
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『ディア・ハンター』感想


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この映画のタイトル、『ディア・ハンター=鹿猟師』の意味するモノが何なのだろうと、考えてきました。
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主人公のマイケルは猟をするなら、鹿を
「1発で」仕留めると言います。

このマイケルの猟における「1発」とは、自ら猟の難易度を上げ、ゲーム性を高めるための自らに課したルールだという気がします。
つまり、マイケルにとって『ディア・ハンター=シカ猟師』になるとは、命を取るゲームを楽しむ存在になることを意味していたのだろうと思います。
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これは、アメリカ人であれば、自然の中のレジャーとして釣りやキャンプと同様、誰もが楽しむ娯楽であり、そんな普通のアメリカ青年として描かれているように思います。
そんな、命をもてあそぶような遊びをしていたマイケルが、ベトナム軍の捕虜となります。
そして、命をもてあそばれる「ロシアンルーレット」というゲームで、自らも殺される側=鹿の立場になります。

そして、その鹿に向かって語っていた「1発」で命を失う事の重さを、身に染みて知ることになります。
それは、ベトナムを経験したニックやスチーブンにも同様に生じた、重い真実でした。

彼らは、命が危険さらされることで、精神肉体に傷を負い、命を失う事、奪う事、の異常さに気が付いたのだろうと思います。
それゆえ、ベトナムから帰った後のマイケルは、猟に行っても鹿を撃つことはできません。
結局、この映画の主題は、命をゲームのようにやり取りする事の異常さを描いているのであり、その象徴が「鹿狩り」であり「ロシアンルーレット」だと思います。
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そんな異常な命のやり取りを、国家が主体となってする場こそ「戦争」なのです。
この映画の、典型的なアメリカ労働者階級の若者たちは、命を「ゲーム=鹿狩り」として奪う事に無頓着に育ちました。

そして、国家の理論による「ゲーム=戦争」によって、命を奪う事の異常さを知る物語だと思います。
以上から考えれば、この映画はそんな「無自覚なアメリカ人」に「戦争」というゲームの異常さを知らしめるための作品だと、感じました。

そんなテーマから見れば「反戦映画」だと思いますが、この映画に関しては単純にそう言い切れない所を、個人的には感じてしまいます・・・・・・・

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『ディア・ハンター』解説

脚本の混乱

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実を言えば、この映画の脚本はルイス・ガーフィンクル、クイン・K・レデカーによる原案からスタートし、当初ラスベガスでロシアンルーレットをするという物語でした。
これを、プロデューサーのマイケル・ディーリーらの判断により、後からベトナム戦争が舞台に置き換えられたそうです。
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そして、この映画の脚本はデリク・ウォッシュバーンとなっていますが、実はマイケル・チミノ監督と共同作業で進めながら、両者の間で相当に揉めたそうです。

そして、最後は裁判にまでもつれ込んで、結局、脚本デリク・ウォッシュバーンとなり、原案がマイケル・チミノ、デリク・ウォッシュバーン、ルイス・ガーフィンクル、クイン・K・レデカーの四人になるという混乱ぶりです。
そんな脚本の迷走ぶりが、個人的には「命を巡るテーマ」と「ベトナム戦争の要素」に分離し、メッセージが混乱しているようにも思うのです。
以下その例を・・・・・・・・

ベトナムでのロシアンルーレット

AP通信のピューリッツァー賞受賞記者ピーター・アーネットは、ベトナム戦争でロシアンルーレットが行われたという証拠はない、ベトコンのロシアルーレットと捕虜の使用は、非現実的であると批判した。
対して、監督チミノはシンガポールのニュースで、戦争中ロシアン・ルーレットが行われたという記事があったと主張していますが、そのニュースは確認できていないようです。
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しかし、後からベトナムのシーンを追加したと思えば、シアン・ルーレットが非現実的だというのも、当然だと思えます・・・・・・・

批評家の相反する評価

公開当時の評論として、肯定的な意見が多かった半面、ベトナム人の描き方が「第二次世界大戦当時のプロパガンダ映画の日本人のようだ」と言われたり、「ベトナム戦争に対する批判がない」と批判もされました。
また、ラストの「ゴッド・ブレスアメリカ」は、「愛国主義に対する批判なのか、そうでないのか」で批評家の間で論争になったと言います。

ここにも、脚本設計の混乱が、矛盾するメッセージとして発せられた結果のように感じます。
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関連レビュー:ベトナム戦争のを語った映画
『プラトーン』
オリバー・ストーンの自伝的物語
ベトナム戦争の敗北の真実


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『ディア・ハンター』受賞歴


第51回アカデミー賞:作品賞・監督賞・助演男優賞・音響賞・編集賞
第33回英国アカデミー賞:撮影賞・編集賞
第36回ゴールデングローブ賞:監督賞
第44回ニューヨーク映画批評家協会賞:作品賞・助演男優賞
第13回全米映画批評家協会賞:助演女優賞
第4回ロサンゼルス映画批評家協会賞:監督賞
第53回キネマ旬報ベスト・テン :外国語映画部門第3位/読者選出外国語映画部門第1位
第22回ブルーリボン賞:外国作品賞
第3回日本アカデミー賞:最優秀外国作品賞
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『ディア・ハンター』解説
メリル・ストリープとジョン・カザール


メリル・ストリープ
deer-cazale-meryl.jpg1977年、ストリープはアントン・チェーホフ作の『桜の園』の舞台に立つ。彼女の演技に目を止めたデ・ニーロの推挙によりストリープの出演が決まった。映画の撮影は1977年6月20日に始まったが、その時点で公開されている映画の中でストリープが出演している映画はまだ一本もなかった。
ジョン・カザール
カザールとストリープは1976年の舞台『尺には尺を』での共演がきっかけで知り合い、製作当時はロマンチックな関係にあった。撮影前に癌を患い製作会社は彼に降板を催促したが、チミノやデ・ニーロ、ストリープらが「カザールが降板するなら自分も降板する」と主張したことで降板は免れた。カザールは公開を待たずに1978年3月12日に死去。なお、カザールが生涯出演した5本の映画すべてがアカデミー賞にノミネートされており、そのうち本作品を含めた3本が作品賞を受賞したこととなった。(wikipediaより)


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2017年08月31日

映画『ディア・ハンター』再現ロードショウ/詳しいストーリー・あらすじ・出演者・予告

『ディア・ハンター』(ストーリー・あらすじ編)



原題 The Deer Hunter
製作国 アメリカ
製作年 1978
上映時間 176分
監督 マイケル・チミノ
脚本 デリク・ウォッシュバーン
原案 マイケル・チミノ/デリク・ウォッシュバーン/ルイス・ガーフィンクル/クイン・K・レデカー

評価:★★★   3.0点



この映画はベトナム戦争で傷ついた、当時のアメリカ国民の気持ちを代弁するような作品です。
当時の若手実力派俳優のロバート・デ・ニーロやメリル・ストリープが説得力のある演技を見せ、クリストファー・ウォーケンがアカデミー賞助演男優賞に輝いています。

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『ディア・ハンター』あらすじ



Deer-friends.jpgペンシルベニア州クレアトンの下街で育った、ロシア系移民の労働者階級の若者5人。
マイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スチーブン(ジョン・サベページ)、スタン(J・カザール)、アクセル(チャック・アスペグラン)は子供の頃からの親友だった。

1968年の今夜、ベトナムに徴兵されるマイケル、ニック、スチーブンの歓送会と、スチーブンとアンジェラ(ルタニア・アルダ)の結婚式が、町の教会で合同で祝われた。
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そこにはアル中の父親に苦しめられながらも、ニックと相思相愛のリンダ(メリル・ストリープ)もいた。
ニックは「戦争から戻ったらと結婚してほしい」とリンダにプロポーズした。
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リンダに思いをよせているマイケルは、ダンスを踊る二人を見ながらビールを飲み続けていた。

そして夜も更け、パーティーは狂騒的になって行った。
そんな中、ニックはマイケルに「俺に万が一のことがあったら、必ずここへ連れ帰ってくれ」と頼む。

その翌日に五人は、いつもの週末のようにアレゲニーの山へ鹿狩りに行った。
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マイケルは猟の相棒に必ず信頼するニックを選び、「一発を考えるべきだ。一発が全てなんだ。鹿を仕留める時も一発だ。」と言っていた。

ニックは一発でなくてもと反論すると、マイケルは「一発でなければ価値がない」と答えた。
そして、その日も言葉通り「一発で」鹿を一頭捕った。

Deer-batlefield.jpgそして、マイケルとニックとスチーブンはベトナムへ旅立った。
1970年、北ベトナムでマイケルは、ベトコンを相手に必死に戦っていたが、その戦場でニックとスチーブンに再会した。

しかし、北ベトナム側の攻勢は激しく、3人は包囲され捕虜になってしまう。
そして、川の上に作られた竹の小屋で、囚われの身となった。
その小屋では、捕虜を監視している北ベトナム兵によって、捕虜を使ったロシアン・ルーレットが行われていた。捕虜2人で交互に引き金を引かせ、どちらが死ぬかに金を賭け遊んでいたのだ。
檻の中で、マイケルはニックに、二人なら反撃し脱出できると、自らの計画を話す。
ゲームに使う弾を3発にし、その銃で敵を倒そうというのだ。
ニックは無理だ、やりたくないと言うが、マイケルは他にチャンスはない、お前と俺のコンビならやれると説得する。
ロシアン・ルーレットのシーン

そして、2人は一瞬のスキをついてベトコン数人を撃ち倒し、スチーブンを連れ脱出に成功した。
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追手から逃れるため、丸太にしがみついて濁流を下った。

そこに運よく、米軍のヘリコプターが飛来し、ニックがヘリに救出された。
マイケルとスチーブンもヘリにぶら下がるものの力尽き、川に落下した。
マイケルは足を負傷したスチーブンを背負いながら、難民の群れと共にサイゴンに向け歩む。そこに友軍のジープが通りかかり、スチーブンだけを乗せ、マイケルは再び1人歩き出す・・・・・・・こうして3人はバラバラになった。

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l年後、サイゴンの軍人病院を退院したニックは、人が変わったようになってサイゴン市をさまよい、市内の地下賭博場で行われている、ロシアン・ルーレットのゲームを見る。

そして、自らも銃を取りプレーヤーとしてゲームに参加し、勝利を収める。

Deer-buck.jpgそれから2年後、クレアトンではマイケルを歓迎するためのパーティーが準備されていた。
しかしマイケルは、その様子を見てタクシーを止めずに通り過ぎる。

そして、人々が去ってからそっとリンダのもとを訪ねる。
リンダはマイケルの帰還を喜んでくれたが、ニックからは何も連絡がないと語った。

Deer-bed.jpgマイケルは友人とも会い、少しずつ街の生活を始める。
しかし、リンダとマイケルは同じベッドで寝てもマイケルはリンダを抱こうとしなかった。

ボーリングをしたり、猟へ行ったりもするが、ベトナム前とは違っていた。
そんなマイケルは、仕留められる鹿に引き金を引けなかった。
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そんなある日、マイケルは復員軍事病院にスチーブンがいる事を、スチーブンの妻から聞く。
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訪ねてみると、スチーブンは両足を失い、車椅子で生活をしていた。

再会を懐かしんだ後、スチーブンはサイゴンから毎月送られてくる大金を見せる。
それは見たマイケルは、ニックがまだサイゴンにいると確信した。
マイケルはスチーブンを強引に町に連れ帰り、家族の元に帰した。


そしてマイケルは、ニックを求めて陥落寸前で混乱状態のサイゴンへ、足を踏み入れた。
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『ディア・ハンター』予告


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『ディア・ハンター』出演者


マイケル(ロバート・デ・ニーロ)/ニック(クリストファー・ウォーケン)/スチーブン(ジョン・サヴェージ)/スタンリー(ジョン・カザール)/リンダ(メリル・ストリープ)/ジョン(ジョージ・ズンザ)/スチーブンの母(シャーリー・ストーラー)/アクセル(チャック・アスペグレン)/ジュリアン(ピエール・セグイ)/アンジェラ(ルターニャ・アルダ)/プリースト(ステファン・コペストンスキー)

関連レビュー:
ハリウッド映画とアクターズ・スタジオ『メソッド演技』
ロバート・デ・ニーロの演技を支える名門・俳優養成所の秘密


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2017年08月20日

映画『或る夜の出来事』とラブ・コメ=ロマンチック・コメディーの歴史/おすすめ!ラブコメ映画10選

『或る夜の出来事』(ロマンチック・コメディー歴史・お薦め10選 編)



原題 It Happened One Night
製作国 アメリカ
製作年 1934
上映時間 105分
監督 フランク・キャプラ
脚色 ロバート・リスキン
原作 サミュエル・ホプキンス・アダムス

評価:★★★☆  3.5点



この映画は、映画史上初のラブ・コメ、ハリウッドで言うところのロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディーだと言われています。
そんなことで、ざっくりとロマンチック・コメディーの歴史と個人的に選んだ名作ロマンチック・コメディーをご紹介します。

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『或る夜の出来事』解説

ラブ・コメ(ロマンチック・コメディー)の歴史


『或る夜の出来事』以前


まずは、『或る夜の出来事』に至るまでのロマンチック・コメディーの歴史をざっと振り返って見たいと思います。
実は映画以外のこのジャンルの源流を尋ねれば、16世紀末のイギリス、シェイクスピア『十二夜』、『真夏の夜の夢』、『恋のから騒ぎ』までさかのぼります。
映画『恋をするシェークスピア』予告

シェークスピアの恋をロマンチック・コメディー風に描いています。

この恋愛喜劇とは大雑把に言えば、中世から近世に至る中で、富裕商人の増加と共に求められた、ドラマの形式だったとされます。
それまでの王国貴族の物語とは違った、もっと庶民的な下世話な物語が、市民階級の力が増すにつれ求められたのででしょう。
そんな「庶民大衆に対するドラマ=喜劇」は、フランスではモリエールが17世紀半ば恋愛喜劇を演じ、名声を勝ち得ました。
関連レビュー:モリエール版ロマンチック・コメディ
『モリエール恋こそ喜劇』
劇作家モリエールの物語
フランス演劇界の偉人を描く

Film.jpgそして、オペラの世界でも『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』など、ロマンチック・コメディーの傑作が生まれています。
しかし小説においては、恋愛の悲劇や苦悩を描いたものには傑作が生まれていますが、ロマンチック・コメディーにあまり見るべきものがないように思います。
それは、喜劇が文章で描かれると、どこかコント的な軽さを持ち、文学の持つ理論性や哲学的概念の提示という、文学的な特徴を発揮し難いせいかと個人的には考えたりします。

そういう点では、やはり「ロマンチック・コメディー」とは演劇向きの題材なのかと考えたりします。
そして、時代は移り「映画」の時代が20世紀より始まりましたが、ロマンチック・コメディーは1934年のこの『或る夜の出来事』までなかったのも不思議な気がします。

コメディー映画は、マルクス兄弟、バスター・キートン、そしてチャップリンというように花盛りだったのにです。
恋愛映画も、純愛、悲恋はハリウッドスターと共に、サイレント映画の時代にも世界中の女性を虜にしていたのにです。
そこにはロマンチック・コメディーに必要なある要素が、『或る夜の出来事』以前の年代には無かったせいではないかと気が付いたのです・・・・・・・・・


『或る夜の出来事』ロマンチック・コメディーの誕生



さて、映画において、ロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディー、恋愛喜劇が生まれるために重要だったのは何だったでしょうか?
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無い頭を振り絞って気が付いたのが、「声=セリフ」でした。

つまり、『或る夜の出来事』が作られた1934年とは、トーキー(音声映画)とサイレント(無声映画)の移行期でした。
1927年10月公開のアメリカ映画『ジャズ・シンガー』で始まったトーキー映画は、その興行収入の高さから1929年には標準的手法としてハリウッドの大手スタジオに取り入れられます。

しかし、映画館の設備がトーキーに対応していなかったため、1930年代中ごろまでのハリウッド映画はトーキー版とサイレント版の2バージョンで製作され公開されていたといいます。

そんな新技術の移行期にあって、『或る夜の出来事』は「音声」を獲得した事で、ロマンチック・コメディーに必要な男女の微妙な心模様、恋愛感情の綾をセリフとして説明する自由を獲得したと思うのです。

たとえばサイレント映画の時代には、映像と感情が定型パターン的に直結していたように感じます。
サイレント時代の大スター「ルドルフ・バレンチノ」の演技

動きだけで表現しようとすると、パントマイム的に感情を形で示す表現が多くなる。

しかし、「トーキー=セリフ」が生まれたことで、親密なふりをしながら嫌っていたり、ケンカしながら惹かれあうという、相反する複雑な心理を描けるようになったと思うのです。
トーキー『或る夜の出来事』の会話シーン

旅の経費を払えというピーターに、賞金10,000ドルはどうすると聞く、エリーの父。ピーターは経費だけで良いと断り、父はそんなピーターを気に入り、娘が好きかと尋ねる。
【1分28秒より意訳】父:一つ尋ねても構わんかね?率直に聞くが、君は私の娘を愛しているかね?/ピーター:あんたの娘と恋に落ちるのは、頭のおかしい奴だけだ!/父:話をそらすな。/ピーター:彼女は完璧な伴侶を捕まえた!キング・ウェスリーだ!今世紀最高の特効薬だろ!でも本当に必要なのは殴ってくれる男だ。あんたの育て方が悪いんだ。/父:娘を愛してるのか?/ピーター:普通の男じゃ、一つ屋根の下で彼女と暮らせるなんて、とても思えないね。俺はゴメンだね!/父:ただ、娘を愛しているかと尋ねているんだ!/ピーター:愛してる!自分の胸がかきむしられるほど。
怒りの表情をしながら、愛を告白するこのシーンはサイレントでは困難だと思いました。

結局「恋愛劇」とは、相互の気持ちを探り合い、確認する物語だとすれば、表情と相反する心理が語られなければ、単純で一直線の恋愛劇になってしまい、喜劇には成り得ないでしょう。
いずれにしても、映画が声を持つことで舞台演劇と同様の表現が可能になり、ロマンチック・コメディーがスクリーンで花開くことになります。

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こうして1930年代以降、クローデット・コルベールいわく、『或る夜の出来事』を全てのスタジオが模倣したというぐらい、ロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディーがたくさん製作されました。


スターを魅力的に描くのに、恋愛劇は欠かせません。
しかし恋愛劇の悲劇や真剣さの表現に向かない俳優達もいます。
でも、このロマンチック・コメディーの成立によって、スターとして売り出せる可能性が広がったように思います。
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実際、この映画のヒロインを演じたクローデット・コルベールはロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディーの女王として、映画界に君臨したのです。


そう考えれば、トーキーと共に花開いた恋愛喜劇は、映画の世界に新しい地平を切り開いたといえるのではないでしょうか・・・・・・・・
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これ以降、映画の世界でロマンチック・コメディーは1つの柱として定着し、このジャンルで名作やスターが生まれ、今につながります。
以下独断と偏見の、ロマンチック・コメディーベスト10をご紹介。

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おすすめロマンチック・コメディー映画10選



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第10位
『ヒースレンジャーの恋のから騒ぎ』


この映画は小品ながら、シェークスピアの『恋のから騒ぎ』を現代アメリカを舞台に描いたもので、アメリカの高校生たちのうらやましい青春がはじけています。

当ブログレビュー:『ヒースレンジャーの恋のから騒ぎ』

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第9位
『ノッティングヒルの恋人』


この映画は、ロマンチック・コメディーの女王ジュリア・ロバーツとロマンチック・コメディーの下僕ヒュー・グラントが、ハリウッドセレブとロンドンのうだつの上がらない中年男を演じ、恋に落ちる物語です。
男のだらしなさがロマンチック・コメディーのテーマになりうることを示す映画だと思いました。

当ブログレビュー:『ノッティングヒルの恋人』
ヒュー・グラントならコチラもおススメ:『フォー・ウェディング』

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第8位
『ブリジット・ジョーンズの日記』




最も今な、ロマンチック・コメディーだと思います。
みもふたもなく、あけすけですが、それが現代のリアルな恋愛事情だろうと・・・・・・
間違いなく、ロマンチック・コメディーの歴史に書き込まれるユニークさを持っていると思います。

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第7位
『アルフレード・アルフレード』

アルフレード・アルフレード予告


この映画は、ダスティン・ホフマン主演のイタリア映画で、気が弱いアルフレードが結婚に振り回される物語。ダスティン・ホフマンのだめ男ぶりが悲しくも笑えます。
イタリア人のいつまでも恋愛したい症候群が良く出た映画。
しかし、現在では入手困難かもしれません・・・・・・・・・・・

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第6位
『恋愛小説家』



この映画によって、ジャック・ニコルソンとヘレン・ハントの二人は、オスカーの主演男優賞と主演女優賞を獲得しています。
映画は、老年に差し掛かったジャック・ニコルソンが演じるロマンチック・コメディーで、もう一度若かった時の情熱を呼び覚まそうという映画かと思いました。
当ブログレビュー:『恋愛小説家』

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第5位
『恋人たちの予感』




『スタンバイミー』のロブ・ライナーが描くロマンチック・コメディー。
往年のロマンチック・コメディーの女王メグ・ライアンの出世作。
当時の男女の恋愛や結婚感が良く分かります。
メグ・ライアンとトム・ハンクスの『めぐり逢えたら』も外せない一本。

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第4位
『プリティー・ウーマン』



やはり名作じゃないでしょうか。
リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが主演するロマンティック・コメディ。
男女双方とも、相互作用によって変化成長していく「おとぎ話」。
死にかけていたロマンティック・コメディを再生させた一本ではないでしょうか。

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第3位
『アニー・ホール』




ウッディー・アレンとダイアン・キートンのコンビで送る、オスカー受賞作。
1977年作品にして、もう恋が幸福な結婚に結びつかないと語り、結婚を続けるためには相互の努力を必要とするが、現代では奇跡的な関係であると暴いた映画。
この映画によって、ロマンティック・コメディはもう作れないのではないかとすら思いました・・・・・・・

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第2位
『七年目の浮気』



伝説の女優、マリリン・モンローの代表作。
個人的にはマリリン・モンローはロマンチック・コメディー女優として完璧な存在だったと思います。
アメリカ資本主義の象徴のような豊かさと華やかさは、時代を象徴し輝いていました。

当ブログレビュー:『七年目の浮気』
○マリリン・モンロー作品では『百万長者と結婚する方法』もオススメ。

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第1位
『ローマの休日』




一位はこの映画しかありません。
映画史的に言っても、映画の質で言っても、奇跡的な一本。
オードリーの資質は、ノーブルさ清潔さが印象的ですが、実はコメディーを演じた時に一番の真価を発揮する女優だったように思います。
そういう意味では、戦後初のロマンチック・コメディー女王であり、同時に映画史上最高のロマンチック・コメディー女優ではないかと思ったりします。

当ブログレビュー:『ローマの休日』
○オードーリーならコチラもおススメ:『麗しのサブリナ』『ティファニーで朝食を』


あ!忘れてた!このジャンルの始祖『或る夜の出来事』・・・・・・・
え〜このベストテンの基礎には『或る夜の出来事』があるとご理解下さい。

ま〜、その〜、全てのロマンチック・コメディーは『或る夜の出来事』に通ずというコトで・・・・・

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posted by ヒラヒ・S at 20:25| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする